大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

釧路地方裁判所北見支部 昭和39年(ワ)48号 判決

主文

一、被告等(反訴原告等)は原告等(反訴被告等)に対し、別紙物件目録記載(一)の物件につき、昭和三五年五月一〇日釧路地方法務局北見支局受付第四、二二九号、同年三月三〇日持分権放棄により、北見市とん田町三五番地中沢仁蔵のための持分所有権取得登記

二、被告等(反訴原告等)は原告(反訴被告)中沢繁に対し、別紙物件目録記載(二)の物件につき、昭和三六年九月一三日釧路地方法務局北見支局受付第八、六二三号、所有者北見市とん田町三五番地中沢ムメ子のため持分一二分の四、同上同番地中沢純子のため持分一二分の二、同上同番地中沢博のため持分一二分の二、同上同番地中沢豊治のため持分一二分の二、同上同番地中沢文子のため持分の一二分の二の各持分所有権保存登記、

の各抹消登記手続をせよ。

三、別紙物件目録記載(一)の物件につき、原告(反訴被告)中沢きゑが持分六分の二、同中沢繁、同中沢吉助、同大江サンコが各持分六分の一の所有権を有すること、別紙物件目録記載(二)の物件につき、原告(反訴被告)中沢繁が所有権を有することを各確認する。

四、原告等(反訴被告等)その余の請求は、これを棄却する。

五、別紙物件目録記載(三)の物件につき、反訴原告(本訴被告)中沢ムメ子が持分六分の二、同中沢純子、同中沢博、同中沢豊治、同中沢文子が各持分六分の一の所有権を有することを確認する。

六、反訴原告等(本訴被告等)のその余の請求は、これを棄却する。

七、訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを三分し、その二を被告等(反訴原告等)の負担とし、その余を原告等(反訴被告等)の負担とする。

理由

(一)  原告中沢きゑは訴外亡中沢誠の配偶者であり、原告中沢繁、同同中沢吉助、訴外亡中沢仁蔵は誠、きゑの実子、原告大江サンコは同夫婦の養子であるが、誠が昭和二六年八月一一日死亡したので相続が開始され、昭和三五年五月一〇日右相続に基いて、目録記載(一)(三)の物件について相続登記がなされ、法定分のとおり原告きゑが六分の二、その余の原告及び仁蔵が各六分の一の各持分所有権取得登記がなされ、更に、右登記をした当日原告等がすべて昭和三五年三月三〇日に持分権を放棄し、仁蔵がこれを取得する旨の登記がなされたこと。

(二)  被告中沢ムメ子は仁蔵の妻で、その余の被告は仁蔵の実子であるが、昭和三六年八月二〇日仁蔵が死亡したので同人の相続が開始され、同年九月八日目録記載(一)(三)の各物件について、被告ムメ子が一二分の四、その余の被告が一二分の二の各持分所有権を取得した旨の登記がなされたことはいずれも当事者間に争がない。

(三)  原告本人中沢繁尋問の結果により成立が認められる甲第一ないし第三号証、成立に争いのない同第四号証に、証人中野義一の証言、原告本人中沢繁、同中沢きゑ、同中沢吉助、同大江サンコ各尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、目録記載(一)(三)の物件は、中沢誠の相続開始後も久しく遺産分割を行なわず、同人所有名義のままになつていたが、昭和三一年頃に至り相続人である原告きゑ、同繁、同吉助、同サンコ、同仁蔵等が相続財産を永く被相続人名義にしておけば相続人の権利が消滅するのではないかと危ぐし、寄り寄り協議の末、昭和三五年三月頃、「目録記載(一)(三)の物件を仁蔵の単独所有名義にすること、但し目録記載(一)の土地については内部関係で原告きゑ、同繁、同吉助、同サンコ等が各その持分権を留保し、後日これを分割すること」等を合意し、右合意に基き昭和三五年三月三〇日右(一)(三)の物件を仁蔵の単独所有名義に登記手続をする便宜上、原告等が真実には持分を放棄する意思がないのに仁蔵の了解の下に各持分を放棄する旨の意思表示をしたものであること、又目録記載(二)の建物は被告等名義で保存登記されているが、これを原告繁が昭和三〇年六月頃目録記載(一)の地上に建築した同人所有のものであること等を認めることができる。右認定に反する証人越智秀雄、同斉藤春吉、同太田初枝、同太田松次郎の各証言及び被告本人中沢ムメ子尋問の結果は信用できず、他に右認定をくつがえすに足る証拠がない。原告等は、目録記載(一)(三)の物件につき、原告等が各その持分を放棄したという意思表示は、原告等と仁蔵間に真実その意思がないのに行なつたもので、民法第九四条第一項の通謀虚偽表示であるから無効であると主張するが、持分の放棄は、本来相手方のない意思表示であるからそれ自体に通謀と云うことはあり得ないので一応有効と解すべきが如くである。しかし、右認定の事実によると目録記載(一)の物件については、原告等と仁蔵の間において、真実には仁蔵を単独所有者とする意思がないのに外形だけ単独所有名義とするため、原告等が仁蔵の了解の下に真実には放棄の意思がないのに各持分放棄の外形的行為をとつたもので、それは恰も、原告等が真実には仁蔵をして右物件の単独所有者とする意思がないのに仁蔵と合意の上各持分を仁蔵に譲渡することの外形をとるに等しく、民法第九四条第一項の通謀虚偽表示を類推適用するのを相当と解される。従つて、目録記載(一)の物件については原告等の持分放棄を無効と解すべきものである。

右に反し、目録記載(三)の物件については、原告等が各その持分を放棄したことが仁蔵の単独所有を仮装するための手段として仁蔵の了解の下になされたものであることを認めるに足る証拠がないので原告等の持分放棄は、有効と解すべきものである。よつて、原告等の請求中、目録記載(一)(二)の物件に対するものは理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとする。

(反訴について)

反訴原告等が目録記載(一)(二)の物件について各持分を有せず、又目録記載(三)の物件について各持分を有することはさきに本訴において認定の如く反訴原告等が仁蔵の相続人として当然の結果である。よつて反訴請求は、反訴原告等が目録記載(三)の物件について持分の確認を求める限度において理由があり、その余の請求は理由がなく棄却を免れない。

(結語)

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、原告等(反訴被告等)の請求中、仮執行の宣言を求めているものに対しては、いずれもこれを附するのを不相当と認めて却下する。

別紙

物件目録

(一) 北見市とん田町三三番地

一、田 八反七畝三歩

畦畔 八畝二三歩

(二) 北見市とん田町三三番地

家屋番号 とん田町三三番

一、木造柾ぶき平家建

居宅 一棟 建坪五坪

(三) 北見市とん田町三五番地

家屋番号 とん田町三五番の一

一、木造柾ぶき平家建

居宅 一棟 建坪一五坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例